「第1回 富士正晴全国高校生文学賞」創設記念対談【松重学長✕佐々木教授】

高校生の感性のきらめきを、すくい上げ、才能を伸ばし、未来の文壇へ

令和2年8月25日(火)徳島県庁にて記者会見が行われた「四国大学『富士正晴全国高校生文学賞』」について、松重 和美 学長と文学部日本文学科 佐々木 義登 教授が対談を行いました。

bungakutaidan00.jpg

アマチュアを育てた富士正晴と、高校生文学賞

佐々木 富士正晴という作家は、小説のみならず詩歌、木版画など非常に多彩な才能を持っていました。「徳島県民の歌」や合唱曲の「阿波の子タヌキ譚」を作詞し、どちらも徳島出身の三木稔さんが作曲されて、徳島に深い関わりを持つ仕事もしています。芥川賞や直木賞の候補にもなったので小説家のイメージが強いですが、「竹林の隠者」と呼ばれ、独創的で個性的な方だったようです。

松重 富士さんは徳島県三好市山城町のご出身で、大学は旧制第三高等学校、今の京都大学に入っていますね。京大では富士さんのような個性的な方が喜ばれる文化があった。権威に頼らない、本来の文学人であったのかも知れないですね。
今回の文学賞は、全国の高校文芸部から応募があった三好市主催の文芸誌甲子園を、我々が発展的に引き継いでいくため、創設したわけです。

佐々木 富士正晴さんは『VIKINGバイキング』という、アマチュアの作家を集めた同人誌を創刊し、主宰していました。ガリ版刷りだけれど有名な雑誌で、出版社が出している文芸誌よりも評価が高いぐらいでした。この同人誌の中から島尾敏雄、野間宏ら日本を代表するような作家が輩出されています。『VIKING』は今も800号を超えて続いていて、アマチュアの小説、文芸の世界では知らない人はいないぐらい有名です。
今回の文学賞は、アマチュアの文芸の振興に非常に力を注がれた富士正晴さんの遺志を継いでいると言いますか、高校の文芸部誌で応募していただくのは、ある意味、そういうニュアンスがあるかなと思います。

松重 文芸誌甲子園では全国の高校文芸部から作品が集まってきましたが、特に東北は強いですね。宮沢賢治の故郷である岩手県とか。それから福岡県も。

「新あわ学研究」が徳島の文化、文芸の拠点になる

松重 この文学賞には、本学が3年前に始めた「新あわ学研究所(現・学際融合研究所新あわ学部門)」とも関係しています。これは幅広いジャンルの徳島の文化を研究するもので、藍文化やお遍路さんなどの伝統文化、自然と食、そして、新文化創造・発掘として、古代ロマンやデジタルアート、それから佐々木先生が担当する「徳島ゆかりの文学」という部門もつくったんですね。この中で今後、富士正晴の研究も進めていきたいと思っています。

佐々木 徳島は阿波おどりや藍染めなどは非常に高く評価され、研究も進んでいます。が、こと文学となると印象は薄いと思うんです。徳島には富士正晴や北條民雄、瀬戸内寂聴という素晴らしい、現代の文学にも影響を与えた小説家がいますが、深く研究されてこなかった。「新あわ学研究」を一つのプラットホームにして、徳島の著名な文学者たちをもう一度世に出し、彼らの文学的業績を後世へと伝えていく使命を四国大学が担わなければいけないんじゃないか。その第一歩として、「富士正晴全国高校生文学賞」が一つの大きなトピックになると期待しています。

四国大学が育てる新しい文芸の才能

松重 文芸誌甲子園は高校文芸誌に対する団体賞でしたが、「富士正晴全国高校生文学賞」は個人賞にしぼりました。と言うのも、これを四国大学分野別入試(芸術・メディア分野)に関係付けるためです。今回の各賞の受賞者が、この入試を受けて本学の文学部日本文学科に入れば、80万円×4年間の特別奨学金をもらえることになります。これは大きな奨励金になると思います。
本学ではこれまで、佐々木先生が高校を訪問して文芸に関していろんな指導をされたり、芥川賞、直木賞を受賞した作家さんを本学に呼んでフォーラムをされたりしています。一流の人たちとディスカッションする場を設けて、学生の教育や意欲に還元しています。

佐々木 私はいままで四国大学のオープンカレッジという一般の方向けの小説実作講座を担当してきましたが、実はこの直近6年間で5名の方が全国レベルの文学賞(三田文学新人賞、林芙美子賞、大阪女性文芸賞、幻冬舎小説コンテスト)を受賞する成果が出ています。
この高校生文学賞をきっかけに全国から優秀な若者が本学に入学してもらえると、ここから英才教育をして、文芸創作の才能をもっと開花させ、育てていくことができます。おそらく早晩、有名な文学賞を受賞する学生が本学から現れてくる、それをすごく期待しています。

松重 これからの教育や大学のあり方について考えると、今後は我々が考えることができないような形で社会に認められるということが起こるでしょうね。例えば音楽で米津玄師さんはボカロをやっていて、新しいメディアを使って情報発信するのみでテレビなどのマスメディアに出なかったこともあり、逆に希少価値もあった。大学というのは、そういうふうな若い人の新しい才能が育つ場でもあり、これからの大学の一つの価値になるのかなという気がしています。

佐々木 私は今回のコロナの問題が、私たちが社会の中で生きていくことを改めて問い直す機会になったのではと考えています。いままで出来ていたことができなくなる非常にストレスフルな状況を経験し、いつ誰が感染するか分からない緊張状態をもう何ヶ月も強いられている。その中で、もう一度自分自身を見直し、自分がやろうとしていることに真摯に取り組むことによって、真の意味での人間的な成長が遂げられる。そういうことに文芸や芸術の創作はとても有効だと考えています。
今回の文学賞では、高校生は16歳17歳の感性でいまの現実を捉えた価値観、倫理観、道徳観で、文章を書いてくれるでしょう。それをぜひ読んでみたいし、その中に秘められたきらめきみたいなものを私たちがすくい上げて、その才能を伸ばしていくことができれば、大学の使命としては最高の結果を導くことができると思います。

Page Top