第2回富士正晴全国高校生文学賞の結果について

応募総数188作品の中から厳正な審査を行い 、 大賞、優秀賞、奨励賞の各賞が決定しました。審査結果は次のとおりです。
大賞については、受賞者の言葉と受賞作品が、徳島文学協会発行の文芸雑誌『徳島文學』に掲載されます。

選考結果

賞名高校名【県名】作品名作者
大賞 東京都立大江戸高校【東京都】 【わく-ごっ-く】 原田仁海
優秀賞 岩手県立盛岡第一高校【岩手県】 綿 長谷川千成
岩手県立盛岡第三高校【岩手県】 床と当たりくじ 三浦麻名
湘南白百合学園高校【神奈川県】 Femme fatale 佐々木いづみ
奨励賞 岩手県立盛岡第三高校【岩手県】 夏風の行く先 内川りん
岩手県立盛岡第三高校【岩手県】 クリアファイル 小原花楓
岩手県立花巻北高校【岩手県】 #きさらぎ駅 髙橋明日香
東日本国際大学附属昌平高校【福島県】 金魚のせなか 金成美咲
灘高校【兵庫県】 加屋君 伊豆古陽
徳島県立城南高校【徳島県】 桜を散らして 新居千鈴
※上記の情報は応募時のものです。

選評

大賞は原田仁海さんの「⬛⬛⬛【わく-ごっ-く】」に決定しました。専門学校生で絵を学ぶ主人公真泉琴子は帰宅途中に見たこともない神社に引き寄せられます。朱色に連なる鳥居を抜けると日本家屋があり、中で高校時代からの友人永幡稟香に出会います。そして彼女から自分の絵の才能の行き詰まりを指摘されるとともに、優れた絵の才能を持っていた永幡との人間関係をかつて一方的に切った事実が明らかになります。小説の最後には永幡の戒名が書かれた位牌が現れ、実は主人公が友人を死に追いやったことが明かされます。二十世紀のヌーヴォー・ロマンのような、抽象的な筆致を用いながら、嫉妬や怨念といった伝統的な「和」のテイストを表現した挑戦的な作品でした。やや表現がペダンティックで幼さも感じますが、執拗なまでの細部へのこだわりが際立っていました。

以下、優秀賞に輝いた三作品についてもコメントします。

長谷川千成さんの「綿」の主人公湊は生きづらさを抱えた高校生、学校でも自宅でもアイデンティティを見失いそうです。社会の中で生きていくことの困難さを感じている主人公の唯一の楽しみは、河原で一人真っ白な「綿」を集めることでした。「綿」が何のメタファーか、最後まで明確にはされませんが、接続困難な自己と社会とのはざまで、主人公に唯一幸福感をもたらすものとして登場します。ややネガティブなラストを想起させますが、思春期の繊細でナイーブな内面が丁寧な筆致で描かれていました。
三浦麻名さんの「床と当たりくじ」は両親が離婚し、母親の元で育てられているものの、その母もほとんど家に寄りつかず、食事もままならない主人公の女子高生と、近所の駄菓子屋のおばあさんとの心の交流が描かれた作品です。本来なら悲壮な雰囲気をまといかねない内容ですが、冷静に淡々と描き切られています。ラスト近く、主人公がアイスの当たりを引く場面は秀逸で、かすかな救いのようなものを感じました。
佐々木いづみさんの「Femme fatale」は地味な女子高生いづみが、クラスでも際だって特徴的な生徒真千子とひょんなことから親友になる物語です。真千子の隠れ家のようなアパートに招かれた主人公はそこで興味があった「ロリィタ」のたくさんの衣装を見せられます。全く違う性質を持っているように見える二人は次第に絆を深めていきます。自分が生まれ変わるためという理由で依頼され、真千子の髪をいづみがバッサリ切るラストシーンが極めて印象的に描かれていました。

昨年よりも作品の質は全体的に向上しており、最終選考作以外でも将来性を感じさせる作品が多数ありました。これからも多くの生徒さんに文芸創作に取り組んでもらい、ぜひ本賞に応募いただきたいと思います。

審査員  阿部 曜子(四国大学 文学部長)        
佐々木 義登(四国大学 文学部 日本文学科 教授)
舘 健一(四国大学 文学部 日本文学科 講師)

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